屋久杉の時代における認識
・・ 江戸時代までの【屋久杉】 御神木〜生きるための糧 ・・
屋久島は海からそびえ立ち、すり鉢を伏せたような円錐形で島の9割が森林です。
山の麓にある海岸部に集落が点在し、その里から見える山を「前岳」と呼び、島の中央部に位置する里から見えない山を「奥岳」呼びます。
九州最高峰の山々が連なる奥岳は、太古より神々が住まう場所とされ、山そのものを神と崇め、山岳信仰の対象とされてきました。
食料や生活に必要な資源は前岳から調達し、奥岳にはむやみには入ることなく、また女人禁制でもありました。
神の領域とされる奥岳の山中に自生する屋久杉にも神が宿っていると信じられ、御神木として大切に守られてきました。
しかしながら、時代に伴い、少しずつそれが変化していくことになります。
屋久杉の伐採が始まったと記録が残っているのは約500年前の安土桃山時代からです。
1560年頃、島津貴久の命にて大隅正八幡宮（現鹿児島神宮）の再興の為に材を調達
1586年、豊臣秀吉の命にて京都の方広寺大仏殿の材調達
いずれも公儀による特別なものでこの時点では本格的な伐採には至っていません。
腐りにくく、丈夫である屋久杉材は高く評価され、江戸時代初期（1612年）には資源としての利用を望む薩摩藩の島津氏の屋久島支配が始まりました。
屋久島は田畑に不向きな土地であることから、年貢の米を納めることが難しい状況でした。
そこで屋久島で生まれ育ち、尼崎や京都で僧として学び、その後は儒学・朱子学を修め、琉球王や島津家に仕えた泊如竹（とまりじょちく）が屋久島の暮らしを豊かに、薩摩藩政の安定の為に屋久杉材の利用を提言しました。
米の代わりに屋久杉材を年貢として納めることになったのです。
?
それまで神が宿る御神木として崇められ、むやみに伐採されることがなかった屋久杉ですが、里に近い屋久杉から切りつくされ、伐採が奥岳に進むと、島民らは神の山で育った御神木を切ることができないと躊躇うようになりました。
泊如竹は数日間山にこもった後、島民らに「屋久杉を伐採してもよいと神様から許しを得た。
但し、屋久杉を伐採する前に一晩斧を屋久杉に立てかけ、斧が倒れた木は神の許しがなかった木として伐採してはならない」と説いた。
島民らはその言葉を信じ、屋久杉を伐採しはじめた。
年貢を納める為に多くの人が山に入り、江戸時代の終わりまでに当時育っていた屋久杉の５〜７割が切り倒されました。
明治時代になると森林の８割が国有林となり、大量伐採に向けて動き始めます。
・・ 明治時代からの【屋久杉】 資源 から 守り続けるものへ ・・
明治に入り、版籍奉還とともに、森林の約8割が明治政府官林となりました。
政府は大阪の商人に屋久杉の伐採を許可し、続いて政府主導で明治34年（1904年）頃からは、屋久島一の美林と言われた小杉谷周辺の屋久杉の伐採が始まりました。
大正１２年（1923年）には木材を港まで運ぶ安房森林鉄道が開通し、屋久杉国有林開発の拠点として小杉谷製品事業所が開設されました。
樹齢1000年を超す屋久杉の生立木（せいりゅうぼく：生きている木）の伐採は禁止され、また当時の伐採方法は斧と鋸だけを用いた伐採だったことで、生態系を大きく破壊するものではありませんでした。
しかしながら、第二次世界大戦時には一時的に生立木伐採の禁が解かれ、昭和１２年（1937年）軍用材の臨時伐採が始まり、戦後は朝鮮戦争の特需により伐採が続いていきました。
戦後復興期、高度経済成長期には木材の不足から国有林の伐採制限の緩和を訴える声に応え、林野庁は昭和32年（１９５７年）に屋久杉の生立木の伐採を解禁しました。
斧と鋸の手作業で行われる伐採には２日という時間を要していましたが、昭和31年（1956年）のチェーンソーの本格導入で樹齢数千年の屋久杉もものの数十分で切り倒すことができるようになり、山の斜面を丸裸にする皆伐方式で原生林を本格的に切り始めていったのです。
そして昭和45年（1970年）周辺の屋久杉をすべて伐りつくしてしまい、屋久杉伐採の拠点地であった小杉谷製品事業所は閉鎖されました。
大量伐採が行われていく中でも、昭和４１年（1966年）の縄文杉の発見や昭和50年（1975年）環境庁による原生自然環境保全地域の指定などの明るい未来の兆しを感じられることもありました。
しかしながら山の再生を考えていない皆伐方式で伐採された地域の麓には大きな災害をもたらし、森を住処としていた動物たちにも大きな影響がありました。
それでも止まらぬ伐採に屋久島出身の青年らが声をあげます。
国策である伐採計画は屋久島の自然、現状を知ることのない人々が机上で立てたものでした。
他に産業のない屋久島の住民のほとんどが林業に、またはそれに関係する仕事で生計を立てていた為に、伐採に関しての反対運動は屋久島の住民にとっても受け入れ難いものでした。
自然環境を研究する専門家達の働きなどもあり、とても時間を要しましたが、彼らの活動が功を成なして、国は自然保護に動き始め、結果、皆伐される予定となっていた屋久島の稀有な自然環境を守り切ることができ、平成5年（1993年）の島の面積の21％の区域が世界自然遺産に認定されることへと繋がりました。
このことで更に機運が高まり、屋久杉の伐採に制限が設けられ、エリア毎に伐採できる期日が決められ少しずつ伐採禁止区域が増え、平成14年（2002年）迄にようやく屋久杉の伐採が全面的に禁止されました。
屋久杉は
とても長きに渡り『御神木『として
屋久島の住民らの生活を守る為の『年貢』として
戦中には日本軍の為に、戦後復興期には失った住居などの為に、高度経済成長期には日本の発展の為の『資源』として
いつの時代も生活の営みに必要なものとして存在していました。
屋久杉は数千年の時を語ることができる世界に誇れる「日本の財産」です。
そして、幾世代先までにも守り続けていかねばならない『地球の貴重な財産』です。
・・ 江戸時代までの【屋久杉】 御神木〜生きるための糧 ・・
屋久島は海からそびえ立ち、すり鉢を伏せたような円錐形で島の9割が森林です。
山の麓にある海岸部に集落が点在し、その里から見える山を「前岳」と呼び、島の中央部に位置する里から見えない山を「奥岳」呼びます。
九州最高峰の山々が連なる奥岳は、太古より神々が住まう場所とされ、山そのものを神と崇め、山岳信仰の対象とされてきました。
食料や生活に必要な資源は前岳から調達し、奥岳にはむやみには入ることなく、また女人禁制でもありました。
神の領域とされる奥岳の山中に自生する屋久杉にも神が宿っていると信じられ、御神木として大切に守られてきました。
しかしながら、時代に伴い、少しずつそれが変化していくことになります。
屋久杉の伐採が始まったと記録が残っているのは約500年前の安土桃山時代からです。
1560年頃、島津貴久の命にて大隅正八幡宮（現鹿児島神宮）の再興の為に材を調達
1586年、豊臣秀吉の命にて京都の方広寺大仏殿の材調達
いずれも公儀による特別なものでこの時点では本格的な伐採には至っていません。
腐りにくく、丈夫である屋久杉材は高く評価され、江戸時代初期（1612年）には資源としての利用を望む薩摩藩の島津氏の屋久島支配が始まりました。
屋久島は田畑に不向きな土地であることから、年貢の米を納めることが難しい状況でした。
そこで屋久島で生まれ育ち、尼崎や京都で僧として学び、その後は儒学・朱子学を修め、琉球王や島津家に仕えた泊如竹（とまりじょちく）が屋久島の暮らしを豊かに、薩摩藩政の安定の為に屋久杉材の利用を提言しました。
米の代わりに屋久杉材を年貢として納めることになったのです。
?それまで神が宿る御神木として崇められ、むやみに伐採されることがなかった屋久杉ですが、里に近い屋久杉から切りつくされ、伐採が奥岳に進むと、島民らは神の山で育った御神木を切ることができないと躊躇うようになりました。
泊如竹は数日間山にこもった後、島民らに「屋久杉を伐採してもよいと神様から許しを得た。
但し、屋久杉を伐採する前に一晩斧を屋久杉に立てかけ、斧が倒れた木は神の許しがなかった木として伐採してはならない」と説いた。
島民らはその言葉を信じ、屋久杉を伐採しはじめた。
年貢を納める為に多くの人が山に入り、江戸時代の終わりまでに当時育っていた屋久杉の５〜７割が切り倒されました。
明治時代になると森林の８割が国有林となり、大量伐採に向けて動き始めます。
・・ 明治時代からの【屋久杉】 資源 から 守り続けるものへ ・・
明治に入り、版籍奉還とともに、森林の約8割が明治政府官林となりました。
政府は大阪の商人に屋久杉の伐採を許可し、続いて政府主導で明治34年（1904年）頃からは、屋久島一の美林と言われた小杉谷周辺の屋久杉の伐採が始まりました。
大正１２年（1923年）には木材を港まで運ぶ安房森林鉄道が開通し、屋久杉国有林開発の拠点として小杉谷製品事業所が開設されました。
樹齢1000年を超す屋久杉の生立木（せいりゅうぼく：生きている木）の伐採は禁止され、また当時の伐採方法は斧と鋸だけを用いた伐採だったことで、生態系を大きく破壊するものではありませんでした。
しかしながら、第二次世界大戦時には一時的に生立木伐採の禁が解かれ、昭和１２年（1937年）軍用材の臨時伐採が始まり、戦後は朝鮮戦争の特需により伐採が続いていきました。
戦後復興期、高度経済成長期には木材の不足から国有林の伐採制限の緩和を訴える声に応え、林野庁は昭和32年（１９５７年）に屋久杉の生立木の伐採を解禁しました。
斧と鋸の手作業で行われる伐採には２日という時間を要していましたが、昭和31年（1956年）のチェーンソーの本格導入で樹齢数千年の屋久杉もものの数十分で切り倒すことができるようになり、山の斜面を丸裸にする皆伐方式で原生林を本格的に切り始めていったのです。
そして昭和45年（1970年）周辺の屋久杉をすべて伐りつくしてしまい、屋久杉伐採の拠点地であった小杉谷製品事業所は閉鎖されました。
大量伐採が行われていく中でも、昭和４１年（1966年）の縄文杉の発見や昭和50年（1975年）環境庁による原生自然環境保全地域の指定などの明るい未来の兆しを感じられることもありました。
しかしながら山の再生を考えていない皆伐方式で伐採された地域の麓には大きな災害をもたらし、森を住処としていた動物たちにも大きな影響がありました。
それでも止まらぬ伐採に屋久島出身の青年らが声をあげます。
国策である伐採計画は屋久島の自然、現状を知ることのない人々が机上で立てたものでした。
他に産業のない屋久島の住民のほとんどが林業に、またはそれに関係する仕事で生計を立てていた為に、伐採に関しての反対運動は屋久島の住民にとっても受け入れ難いものでした。
自然環境を研究する専門家達の働きなどもあり、とても時間を要しましたが、彼らの活動が功を成なして、国は自然保護に動き始め、結果、皆伐される予定となっていた屋久島の稀有な自然環境を守り切ることができ、平成5年（1993年）の島の面積の21％の区域が世界自然遺産に認定されることへと繋がりました。
このことで更に機運が高まり、屋久杉の伐採に制限が設けられ、エリア毎に伐採できる期日が決められ少しずつ伐採禁止区域が増え、平成14年（2002年）迄にようやく屋久杉の伐採が全面的に禁止されました。
屋久杉は
とても長きに渡り『御神木『として
屋久島の住民らの生活を守る為の『年貢』として
戦中には日本軍の為に、戦後復興期には失った住居などの為に、高度経済成長期には日本の発展の為の『資源』として
いつの時代も生活の営みに必要なものとして存在していました。
屋久杉は数千年の時を語ることができる世界に誇れる「日本の財産」です。
そして、幾世代先までにも守り続けていかねばならない『地球の貴重な財産』です。
